学校からの帰り。
いつも通り隣を歩くは、どこか楽しげだ。・・・・・・なるほど、そういうことか。
今日がどういう日なのかを考えれば、答えは自ずと出る。お前は・・・・・・。
「蓮二っ。」
「どうした?」
「今日って、何の日?」
と言う。
もちろん、それに答えられないわけはない。だが、普通に返すのも面白くないな。
そう考えて、俺はあえてこう答えることにした。
「269年に処刑され、殉教したバレンティヌスに由来する記念日だな。ただ、異論を唱える者もおり・・・・・・。」
「そ、そうだけど!日本的には、の話!」
まだ続くと思ったのか、は慌てて、俺の説明を遮った。
・・・・・・本当、面白いやつだ。だから、こうしてお前の期待を裏切りたくなるんだろうな。
「日本では、愛しい相手、特に女性から男性へチョコレートを渡すことが主流となっている。しかし、昨今は同性の友人間で交換したり、男性から女性へ渡すことも増えてきている。・・・・・・というわけで、お前にこれをやろう。」
「えっ?!!」
「何を驚いている?俺にとって、愛しい相手はお前。何か間違っているか?」
「いや、その・・・・・・、あ、ありがとう。」
「気にすることはない。」
「・・・・・・って、待って!私も渡したいの!」
今度は話が終わると思ったらしく、またもは慌てて、鞄の中を探る。
「もう、わかっててやってるでしょ。」
文句を言いながら、は箱を差し出した。
「ありがとう。」
「・・・・・・やっぱり。わかってる、ってことは驚きも少ないのよね。」
「いや、そんなことはない。」
「そんなことあるの。・・・・・・まぁ、きっと手作りするなんて予想されているだろうから、市販の物を持って来たけどね!」
はにやりとしながら、得意そうに言った。・・・・・・だが、その期待の裏切り方はどうなんだ。
別に手作りでなければならないわけではない。お前に貰える、という事実が嬉しいのだから。
それでも、なら作ってくれるだろう、いや作ってほしいと思っていた俺の気持ちはどうなる。
そんなことを考えていた俺は、何も返せずに、ただ黙り込んでしまった。それをは、してやったという表情で見ている。
「・・・・・・なんだ?」
「ふふ。やっぱり、そこまでは蓮二も考えてなかったみたいだな、って思って。」
「そうだな。」
ほんの少しだけ、不機嫌な声で返せば、は一層嬉しそうな顔をする。
・・・・・・だから、そういうことじゃないだろう。
そう思った矢先、はまた鞄の中を探り出した。
「・・・・・・だから、はい。こっちが手作りです!」
「・・・・・・え?」
「今年は二種類用意してみましたっ!・・・・・・ね?ここまでは予想できなかったでしょ。」
・・・・・・なるほど。そこまでは、俺も考えていなかった。
「・・・・・・。」
「あの〜・・・・・・蓮二?もしかして疑ってる?なら、開けてみてっ!ちゃんと手作りと既製品って、違いがわかると思うから!」
俺が何も反応しないことに、俺の考えを勘違いしているらしいは、慌ててそう言った。
別に疑ってなどいない。本当に、予想外だったんだ。・・・・・・少し悔しいぐらいにな。
だからこそ、の発言には素直に乗っておくことにした。
「・・・・・・たしかに、上手くできているが、ほんの少し大きさが不平等だな。これは、間違いなく手作りだろう。」
「でしょ!それで、もう一方は?」
「・・・・・・そうだな。こちらは、パッケージも開けられていない。既製品だな。」
「ね!」
そして、そのお礼はたっぷりさせてもらおうか。
「なら、こちらの既製品の方は、二人で食べないか?」
「え?」
「あまり菓子類を食べ過ぎてもいけないしな。それに、もこういう物は好きだろう?」
「まあね。」
「じゃあ、そこの公園のベンチにでも座って、一緒に食べよう。」
「うん!」
目的地へと向かいながら、俺は次の手を打っておく。
「そういえば、チョコレートにはリラックス効果など、体に良い働きがあるそうだ。」
「らしいねー。」
「それ以外にも、血流の増加、心拍数の上昇、といった影響もあるらしい。」
「じゃあ、高血圧の人とかはあまり食べちゃいけない、ってこと?」
「いや、そうとも言い切れないようだ。血管の機能やコレステロール値が改善された、という報告もあるそうだ。」
「へー、やるね、チョコレート!」
「ただ、高カロリー食品でもあるから、食べ過ぎるのは良くない。」
「は〜い。」
・・・・・・さてと。今はこれぐらいでいいだろう。
鞄をベンチに置き、自分もその隣に座る。も同様に、俺の隣へと座った。
「それじゃ、いただくとしよう。」
「うん、どうぞどうぞ。そして、私もいただきますっ。」
箱を空け、中の物を1つ掴む。
「ほら。」
「えっ?」
「お前も食べるんだろう?」
「そ、そうだけど・・・・・・。私からでいいの?」
「ああ、問題ない。」
「そ、そう・・・・・・。」
少し躊躇う。その理由は、プレゼントした自分が先に食べてもいいのか、ということだけではないのを俺は知っている。
本当は、俺に食べさせられることが恥ずかしいんだろう?
だが、俺はそれに全く気付いていない、という顔をして、の口元にチョコレートを持っていく。
すると諦めたように、はそっと口を開いた。
「・・・・・・どうだ?」
「・・・・・・うん、美味しい。」
「そうか。」
「うん、本当に美味しい!蓮二も食べて!」
「ああ、そうだな。」
もう安心したのか、は素直にチョコレートの感想を述べた。
これから・・・・・・なんだけどな?
「どう?」
「・・・・・・甘すぎないのがいいな。」
「だよね!」
「ところで、。さっきの話を覚えているか?」
「ん?さっき、って・・・・・・?」
「チョコレートの効果について、だ。」
「あぁ、リラックスできるとか、心拍数が上がるとか、って話?」
「そう、その話だ。実際食べてみて、実感できたか?」
「え?う〜ん・・・・・・。美味しい、ってだけで、あまりわからなかったかな。まぁ、美味しくて癒されたから、リラックスはできたかも?」
「心拍数の方はわからなかったのか?」
「うん、そうだねー・・・・・・。」
「じゃあ、もう一度試してみよう。」
そう言って、俺は再び、の口元へチョコレートを持っていこうとする。
「あー、ちょ、ちょっと待って!自分で食べるから。」
「別に遠慮する必要は無いぞ。」
「いや、その・・・・・・ほら!食べさせてもらうと、自分のタイミングじゃないから、ちょっとした驚きもあって、それでドキドキしちゃうこともあるかもしれないじゃない?そうしたら、ちゃんと実験できないからね!」
なぜ、そんな嘘をつく?・・・・・・まぁ、素直に言うのが恥ずかしいんだろうな。
そう考えると、つい笑いそうになってしまうが、何とか堪え、平静を装う。
「そうか。なら、の好きなタイミングで食べるといい。」
「う、うん。」
今度は箱ごと差し出すと、その中からがチョコレートを掴み、口に入れた。
そして、そのチョコレートを食べ終わるまで、俺はをじっと見続けた。
は、そんな俺の視線に気づいているようだが、あえて目を逸らしている。・・・・・・これも恥ずかしいんだろうな。
「・・・・・・どうだった?」
「え、あー、うん。そうだね・・・・・・ちょっと上がったかもしれない。」
それは本当にチョコレートだけが原因か?などという意地悪な質問をする気はない。
ただし、これだけで終わるつもりもない。あくまで、これらは布石なんだ。
「そうか。一説によると、カップルでキスをしている時よりも心拍数が上がる、という報告があるそうだが、それぐらい上がったか?」
「えっ?!ど、どうだろう・・・・・・?」
「ふむ・・・・・・。では、試してみるか。」
「な、なにを・・・・・・?!んっ・・・・・・。」
「・・・・・・。」
何を試すのか、そんな質問をしかけたの口を、己の口でふさぐ。
答えずとも、これで何を試すのかは、わかっただろう?
そう、全てはこのための前置き。これぐらいのお返しはしないと・・・・・・な?
「・・・・・・さて、どうだった?」
「・・・・・・れ、蓮二!」
「なんだ?」
「なんだ、じゃなくて・・・・・・!あぁ、もう!!」
言い返すことができないのか、それとも、諦めたのか――まぁ、の場合は両方か――、はこちらから目を逸らし、口を閉ざした。
なかなかの反応だが、に無視されるのは面白くない。
「?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・悪い、少しやりすぎたか。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・そんなに嫌だったか?」
「・・・・・・嫌じゃないけど。」
俺が悲しげに聞けば、はすぐに口を開いてくれた。
本当、お前は優しいやつだな。・・・・・・それに比べて、俺は少し意地が悪いのかもしれない。
「突然で恥ずかしかった、のか?」
「うん・・・・・・。」
「わかった、すまない。」
「・・・・・・ううん、謝ることじゃないよ。」
「・・・・・・そうか。ありがとう。」
「うん。・・・・・・でも、今度やったら怒るからねっ。」
まだ少し顔を赤くしながら、そう言い放つ。
俺は、お前のそういう表情も好きなんだ。仕返しをしたいだけでもなく、キスをしたいだけでもなく、それらの中でお前の一挙一動を見ていたいんだ。
「では今度は、ホワイトデーのときにするとしよう。」
「ちょっと・・・・・・!?」
「何か問題があるのか?」
「当たり前でしょ!」
「だが、先ほどは突然で恥ずかしいから困る、ということだったのだろう?なら、こうして前もって言っていれば問題ないのではないか?」
「そ、そういう問題じゃ・・・・・・!」
「今度はチョコレートと同時にキスをしてみるか。」
「っ?!!」
は、恥ずかしさからパニックになっているようだ。
・・・・・・全く、可愛すぎる。ホワイトデーの件も、初めは冗談のつもりだったんだが・・・・・・実際にしてみようかと思い始めた。そのときのお前の反応も見てみたい。
お前に嫌われるのだけは嫌だからな。無理強いをするつもりはないが・・・・・・よければ、来月もお前と共に甘い時を過ごさせてくれ。
はい、ということで、柳さんのバレンタイン夢でしたー!乾さんの節分夢のあとがきで書いていた“あんなこと”は、“こんなこと”でした(笑)。
何となく、私の中で、こういう微エロと言いますか、キスなどの行為は、立海メンバーに任せたくなるのです(笑)。
・・・ってか、何気に初の柳夢ですよね?!(短編はありますけどね)・・・・・・初がこんな感じで申し訳ないです(笑)。でも、悔いはない!(←)
ちなみに、チョコレートの効能は、ネット情報のみなので、鵜呑みにはなさらないでくださいね。雰囲気をわかっていただければ、と思います。
('13/02/14)